振り子時計
今回は私の部屋にある振り子時計を紹介します。SEIKO製の30日巻き時計です。一つ前の世代の方なら、このタイプの時計は見慣れているでしょう。昭和初期から広く民間へ普及していったこの手の時計は、細かな部分は違えど大体似通った仕様になっています。振り子と文字盤を覆う扉のデザインだけを微妙に変更しただけのものも多数見かけます
機械式時計というのは精密機械として扱われがちですが、部品の種類と役割だけを一通り覚えて仕舞えばこれらが歯車によって連結されているだけなので、機械の中では非常に理解のしやすい単純な部類のものとなります。コンピュータのようにハードウェアとソフトウェアといった二段階の理解をする必要もなく、蒸気機関や内燃機関のように気体を扱う必要もありますせん。つまり、リバースエンジニアリングがしやすいのです
また、更に掛け時計というのは部品一つ一つが大きく作れるため、必要とされる工作精度の水準も決して高くはなく、金属加工用の道具を粗方用意して仕舞えばコピー品を作ることも簡単です。実際、複数の会社で似たようなものが多く製造されていました
— 黒縁の写真保管庫 (@kurobuchi_4) May 14, 2020
ゼンマイは鍵巻きで、巻きネジは振り子の横に格納されています。文字盤上に二つある鍵穴は右側が普通に時計を駆動するためのもので、左側がベル用となっています
— 黒縁の写真保管庫 (@kurobuchi_4) May 14, 2020
鍵穴の横にある丸い穴はパワーリザーブで、充分に巻き上げられていると青、そこから少し動かし続けると白、そろそろ巻く必要がある頃になると赤に表示されます。しかし、私の時計はゼンマイがヘタっているためか、赤の表示を待たず白の表示の段階で止まってしまいます。冒頭にも述べたように、この時計は本来なら30日巻きのはずなのですが、私は8日に1回ほど巻いています
ゼンマイ式の掛け時計の歴史を見ていくと、その駆動時間は8日巻き、10日巻き、20日巻きと伸びていき、30日巻きとなってその進化を終えました。しかし、その最終形態である30日巻き時計が経年劣化で最初期まで退化してしまっているのが私の時計です
— 黒縁の写真保管庫 (@kurobuchi_4) May 14, 2020
この手の時計はよく、古民家の屋根裏等で、ベルがうるさいからという理由で振り子を外され、止められて放置されてしまっている事が多いようです。実際、ベルを止める機構がないのは不便なので、私はこれを自作して追加しました
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構造は単純で、ピンを差し込むとベルを鳴らすための歯車と干渉してベルが鳴らなくなるようになっています。ピンは百均のかんざしを改造して作りました。これでもう、夜寝ている時にベルが鳴らなくて済みます
ちなみに、振り子時計というのは実用的な機械式時計として歴史上初めて広く民間に普及したものですが、それでいて最も精度を出せる構造のものだと言います。機械式腕時計の世界では、時計職人がトゥールビヨンやハイビートテンプなどといった、より高い精度を出すための機構を競うように作っていますが、それらさえも最も最初期に登場した単純な振り子時計には敵わない。なんだかロマンを感じますよね。まぁ、部品が大きくて作りやすいのでよく考えたら当たり前なのですが、、、
細かいことを書けば、ひげゼンマイを使うテンプより重力を使う振り子の方がより高い等振性を持っているとか、特に振り子自体が圧倒的に大きいから調節もより細かくできるとか(その調節の制約に抗うため、振動数を上げたものがハイビートテンプ)、腕時計のように重力のかかる向きが変わる事がないとか(その向きの変更による誤差を極力小さくするための機構がトゥールビヨン)、いろいろなことが言えます
もちろん振り子時計は持ち歩けないので実用性では腕時計の圧勝です。そして、機械式時計として最も高い精度が出せると言ってもクオーツ時計には敵いません。これは、ある分野の技術に物理的な限界見えてきたら、全く別の軸からの開発を行う必要があるという教訓なのかもしれません
ちなみに、現在最も精度の高い時計はセシウム時計で、その誤差は一億年で一秒ほどだそうです。これはもう、途方も無いですね。このレベルの正確さに支えられている現代文明の儚さを思うと、気が狂ってしまいそうです
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