タイムマシンの作り方

　そもそも時間とは何なのでしょうか。いや、こう言い換えた方がいいかも知れません。私たちは、何を持ってして時間の流れを感じ取るのでしょうか？　現在、多くの人は時計の針の移動や、表示される数字の変化から時間の流れを感じとっています。時計というものがなくても、古代の人は星や自然の動きから時間の流れを感じていました。つまり人間は、ものの移動や変化から時間を知るのです。時間というのは物質やエネルギーが変化したり移動したりする事が可能であるという事実と、その変化に対する人間の記憶に過ぎないわけです

　過去というのは今の状態に変化する前の状態についての人間の記憶でしかなく、そこにあったものは変化を通して今に引き継がれているだけなので、今となってしまえば過去というものは実体を持ちません。つまり「今」から過去という「場所」へ行こうとする事は、存在しない駅を目指した旅になってしまいます。これがタイムマシンを作れない理由です

　では、人間にとって実質的にタイムマシンとほぼ変わらない技術とは何でしょうか。その作り方を、今からここにお書きします

　まず、全人類の脳をコンピュータに繋ぎ、外部からの操作を可能にします。これはフルダイブ技術といって、近いうちに実現できる可能性が高い技術です。次に、タイムトラベルをしたい人物に対して、フルダイブ技術による仮想現実の中でその人が思い描くタイムマシンのようなものを使わせ、本当にタイムトラベルができているように思わせます。最後に、その人物がタイムトラベルで起こした事と辻褄が合うように全人類の脳へ操作を行います。該当する人物が過去へ行って歴史を改変した場合は全人類の記憶を塗り替え、未来へ行った場合はその人物が作り出した未来へと皆を誘導します

　これで、人間の認識の上ではタイムマシンが存在するのとほぼ変わらない装置の完成です。フルダイブ技術が普及しても、こんな傍迷惑なシステムを搭載するとは思えませんが、可能な事は事実です

　よく、技術革新について「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」というジュール・ヴェルヌの名言を持ち出す人がいます。このような人は、この名言を根拠にタイムマシンが製作可能であると主張します。しかし、これをそのままの意味で捉えるべきではありません。今私たちが置かれている世界の法則に対して根本から逆らうような事はどのようにしても不可能だからです

　このことは、全能の逆説という議論を参考にするとわかりやすいでしょう。全能とされる神であっても、論理という制約からは逃れられないはずだ、であればそれは全能と言えるのか、という議論があります。と、これだけ書いてもよく分からないかもしれないので、分かりやすいようにこの議論において重要なフレーズを挙げておきましょう

「神は四角い円を作れない」

　「四角い円」というのは、論理的に破綻していますね。どうしたらそんなものを描けるのでしょう？　しかし全能の神だったら、、、いや、あり得ないですよね？　だって「四角い円」ですよ？　このように、初めから論理的に破綻している事はどうしても起こり得ないため、全てが可能とされる「全能」もあり得ないのではないか、という議論がこの「全能の逆説」です

　しかし、鋭い人はこう思うでしょう。見た人が、どうしても「これは四角い円である」という認識をしてしまうような強い精神作用を持つ何かを作れば、それは論理の制約に抗って四角い円を描いたも同然なのではないか？　と。そしてそれを実現できてしまうのが、脳を直接操作してしまうフルダイブ技術なのです

　「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」というのは、決して人間が想像したものを本当にその通りに作れるという意味ではありません。これまでも人類は、逆らえない法則の壁にぶつかった時には別の観点から物を見て技術開発を行い、その実現したい技術が存在するの実質変わらない状況に持ち込むという方法でその壁を乗り越えてきたのです

　フルダイブ技術は、もしかしたらこうした壁を乗り越える技術の決定版かもしれません。そもそも、人間にとってはこの世界そのものが自身の認識以上でも以下でもないため、その認識を直接的な手段で塗り替えて仕舞えば世界など如何様にもできてしまいます。しかし、それを可能にする技術を持つのもまた人間です

　もしかすると人間は、既に神と同等の存在なのかもしれませんね。まぁ、こんな傲慢な事を書いていると、もし本当に神が存在した場合に、アトランティスやバベルの塔のように罰せられてしまうかもしれないので、今回の記事はこの辺にしておきましょう